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生活圏に水道水を供給する浄水場においても河川等の水源から取水した水の濁りを除去するために使用された凝集沈澱剤の汚泥から放射能が検出され、その結果、汚泥の処理に支障をきたしているケースが報道されています。セシウムは河川水等の水中を、濁りの元である細かい粘土や砂の微粒子に非常に強く吸着された状態で移動しています。このため、浄水場において濁りの除去に使用された凝集沈澱汚泥から放射能が検出される理由になっています。また、通常の浄水施設では水道水をつくるために、上記の凝集沈澱処理に加えて、その後段では砂濾過処理も実施されています。このため、正常な運転とメンテナンスがなされている浄水場から供給された水道水にセシウムが混入してくることは考えにくいと言えます。また、ストロンチウムに関しては、セシウムとは異なり粘土や砂の微粒子に吸着されることはありませんが、やはり浄水場の凝集沈澱処理において共沈除去されていると考えられます。下図に、ストロンチウムの凝集沈澱処理に関する試験結果を示しました。同試験では、無担体ストロンチウム(粘土や砂に吸着されておらず、イオンとして水に溶けた状態のストロンチウム)を水道水をベースにして汚染水を模擬的に作成し、これに凝集沈澱剤を50mg/Lの濃度で添加した条件下で、pHをパラメータとして同汚染水から除去されたストロンチウムの割合を調べています。
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上記の本実験では、ストロンチウム濃度を370000Bq/Lと非常に高く設定しましたが、現実の公的モニタリングからはストロンチウムによる水道水の汚染は確認されていません。よって、例え河川水中にストロンチウムによる汚染が生じていても、本実験の設定値よりも汚染濃度の値が低いと予想できます。このため、ストロンチウムは浄水場の凝集沈澱処理によって除去されており、水道水のストロンチウムによる汚染は防止されているものと考えられます。ただし、各浄水場における凝集沈澱剤の使用濃度は取水する各水源の水の濁度によっても変わるため、本試験の使用濃度である50mg/Lを下回る場合も存在するかもしれません。また、凝集沈澱処理におけるpHが7と中性近辺の場合は、上図の様にストロンチウムの共沈率は明らかに低下します。 したがって、放射性物質による土壌の汚染が確認されている地域においては、各浄水場における取水源の汚染状況を正確に把握して、浄水場の凝集沈澱処理における薬品濃度やpHを調整すること、および砂濾過の濾床からの放射能をモニタリングすることを通じ必要に応じて通常よりも早めに濾床の砂交換を実施することなど、水道水のストロンチウム汚染を事前に予防するために充分な対策を実施することが求められます。
しかしながら、陰イオンのヨウ素は通常の浄水場が備えている処理設備では除去できません。したがって、今後、放射性プルームを含む降雨があった際には、水道水のヨウ素による汚染に対して特に留意する必要があります。また、土壌の汚染が確認されている地方において、元々の水源がきれいなために水質検査が充分実施されていない井戸水や天然水を利用するにあたっては、汚染の有無や程度を把握する継続的なモニタリングが必要と言えます。
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Y. Koyanaka, Untersuchungen über die Trennung von Spaltprodukten nachder Flotationsmethode - Die Abtrennung von 137Cs KFK-tr-228, Kernforschungsyentrum Karlsruhe Literaturabteilung, (1966)